論文「LCI Evaluation of Bagasse Pulp as a Cellulosic Packaging Materials(邦題:紙系包装材料としてのバガスパルプのLCI(Life Cycle Inventory)評価)」の日本語による内容紹介ついて(解説)

非木材グリーン協会専務理事 添田 馨

1.はじめに

近年、SDGsの「13.気候変動への具体的な対策」への関心の高まりと相俟って、非木材資源におけるCO2吸収量のLCI(ライフサイクルインベントリ)評価があらためて注目されはじめています。

当協会は2009年に、サトウキビ由来の非木材パルプであるバガスパルプについてLCI評価を行い、その結果を論文にまとめました。この論文は英語で書かれ、タイトルは「LCI Evaluation of Bagasse Pulp as a Cellulosic Packaging Materials(邦題:紙系包装材料としてのバガスパルプのLCI評価)」です。当該論文は日本包装学会に投稿され、受理された後の査読を経て、2012年に「日本包装学会誌」(Vol.21 No.1/2012)に掲載されました。

この論文が書かれてからすでに14年が経過しておりますが、地球温暖化対策への一環として、同論文の内容が時代的な要求に資する側面の大きいことが考えられるため、このたび、当協会ホームページ上にて日本語による内容紹介を掲載することに致しました。

2.日本語による内容紹介の掲載にさいしての変更点

 掲載するに際しては、発表当初の形からいくつかのおおきな変更点があります。

 まず、使用言語を英語から日本語に翻訳した〝日本語版テキスト〟として公開いたします。これは、より幅広い読者層への利便性を考慮したうえでの変更です。本論文の日本語訳がこれまで公開されたことはありません。よって日本語での内容紹介に当たっては、英語版オリジナルテキストの内容を最大限尊重したうえで、これを取り行なう次第です。

 また、公表に際しては、二種類のバージョンを同時に掲載することと致します。「グロス版」及び「ネット版」として、それらを呼称し区別いたします。

その理由ですが、当該論文には執筆当初よりこのふたつのバージョンが存在しておりました。これはバガスパルプのLCI(ライフサイクルインベントリ)を各ステージ毎に算定する際の規準の設けかたにおいて、二つの異なる考え方に基づいた別々の方法がとられたためです。

バガスパルプは、砂糖を精製するために栽培されたサトウキビの搾汁後の残渣を原料にして作られます。従いまして、サトウキビの生育プロセス、砂糖の精製プロセス、パルプの製造プロセスといった、目的のそれぞれ異なる工程が組み合わさっているため、LCI(ライフサイクルインベントリ)を算定する際にも、前提となる数値の取りあげかたに、一定の工夫と配慮が必要になってきます。

ひとつの考え方としては、生育・精製・製造の全工程において放出・吸収されるCO2の重量をすべて計量して合算する方法があります。この方法で算定された数値を採用したバージョンが、「グロス版」論文です。

これに対して、もう一方の考え方として、それら全部の工程のCO2を合算した重量から、砂糖精製のプロセス等で発生した重量分を差し引き、パルプの製造プロセスの部分で発生したCO2の数値だけを選択して採用したバージョンが「ネット版」論文です。

2012年に公開された英語版のオリジナル論文は、実は、この「ネット版」のほうでした。「グロス版」と「ネット版」とでは、当然ながら、最終的に発生するCO2の全体重量に大きな差異が生じています。しかしながら、この差異は、いずれかが正しくいずれかが誤りという意味の食い違いではなく、あくまで算定根拠とする規準の設け方の違いによって生じる必然的な数値の異同であり、それぞれのケースにおいて今後求められるであろう多様的かつ整合的な解釈・評価にむけて根拠を与えるための、ふたつの側面をそれぞれ指し示しているとご理解いただければ幸いです。

〔数値異同の具体的事例〕

〔CO2全体量(差引吸収量)異同の理由〕

「グロス版」と「ネット版」では、特に「CO2吸収量」において「1,282,891t」と「367,500t」というように、大きな数値上の開きが生じています。

1,000トンのサトウキビは、用途別に、搾汁液714トン、バガス286トン(燃料用225トン、パルプ用61トン)から構成されると経験的に知られています。

つまり1,000トンのサトウキビから採れるバガスの量は概ね286トンであると理解すれば、重量比にすると約28.6%になります。従いまして、この重量比を「CO2吸収量」にそのまま反映させると、以下のようになります。

1,282,891トン×28.6%≒367,500トン

 以上のような計算上の操作が施されたことで、それが最終の「CO2全体量(差引吸収量)」の大きな開きとなって表れています。

評価の規準をどこに設けるか、その選択の仕方によっていずれの数値を採用するかのご判断の参考にしていただければ幸いです。

以 上