フィリピン:日本銀行券(紙幣)のふるさと

飯山賢治(非木材グリーン協会 前会長)

もう 45 年も前になりますが、大蔵省印刷局(現:独立行政法人国立印刷局)研究所からアバカ(Abaca, Musa textilis:マニラ麻)繊維の成分分析とその性状を生かしたパルプ製造法についての共同研究の依頼がありました。これが私が初めて関わった非木材資源でした。
アバカはバナナ(Musa acuminata)の同じ仲間の単子葉植物綱ショウガ目バショウ科バショウ属で、外見はバナナとそっくりです。フィリピン原産で、ボルネオ島やスマトラ島にも広く分布します。植物学的には多年草ですが、高さは 5~6m に達するため木のように見えます。マニラ麻は 3-8 ヶ月ごとに収穫されます。生⾧した個体は根を残して切り倒し、葉鞘を引き剥がします。残された根からは新しい植物が生⾧します。葉鞘からペクチン質を主体とする柔らかな部分を除き、繊維だけを取り出します。繊維の⾧さは 1.5-3.5m で、植物繊維としては最も強靭なものの 1 つで、非常 に 高 い 耐 久性、耐候性のマニラ麻ロープができます。
このようにして得られた生のアバカ繊維に加え、生産地の球形をした地球釜を使って、アバカ繊維をアルカリ性サルファイト法によりパルプ化したものも日本に輸出されています。1 万円、5 千円、千円の紙幣の原料にはミツマタ、アバカ及び針葉樹パルプが使われます。ミツマタは 2006 年までは国内で300~600 ㌧/年生産されていましたが、急激に減少し 2016 年には 20 ㌧/年程度になってしまいました。その結果、2019 年にはネパールから 72 ㌧/年輸入しています(日経 2019/5/20)。輸入単価は 2,000 円/㌧とのことです。アバカはフィリピンとエクアドルから生(主としてフィリピン)とパルプ(主にエクアドル)を輸入しています。輸入単価は約 200~250 円/kg とミツマタの 1/10 ぐらいです。国内でのパルプ化もあわせて、厳しい品質検査にパスしたものが紙幣等に使われ、その品質に達しないパルプは、アバカティーパックのような高い湿潤強度が求められる用途にと加工されていきます。
日本の紙幣は洗っても形を崩しません。それはアバカ繊維の高い耐久性、湿潤強度のためです。