危機一‘発’(番外編):クウェート(その2)

 そもそも今回の出張の主な目的は、真夏のアラビア湾で数万トンの貨物の揚げ荷役が本当に効率よく実施できるか、を確認することでした。故あって貨物の詳細については遠慮させていただきます。

 オイルショックの最中でもあり、クウェート港だけでなく湾岸諸国の港湾は大混雑を極めていました。港に到着しても数十隻の大型船が滞船、つまり荷役の順番待ちをしている状態です。2ヵ月、3ヵ月の待ち時間(日数)は、あたり前状態です。これによる滞船料は、1船あたり数億円にもなります。荷主はその滞船料を回避するために、相対的にコストはかかるが、港外(洋上)で人手を利用して艀(はしけ)に貨物を移動させようと考えた次第です。
 クウェート到着の翌日朝から、ランチに乗って沖合10km程のところに待機している本船に向かいます。アラビア湾内でもかなりの波があります。気温52℃、湿度5%程度、南風(砂漠方向から)約10m。砂漠方向からの風は熱い。それでも海上は、心持ち涼しい気分です。クウェートでは、原則として気温50℃以上は“Non Working Day”として作業は禁止されますが、海上ではそれほど法令順守に配慮しているとは思えない状態でした。(何故なら海上は涼しいから?)

 気温50℃を体験したことがありますか?最近、日本でも地球環境の不順さから40℃位の気温が記録されています。でも50℃となると、さすがに帽子、長袖が必要となります。これは強い日差しから肌を守るためには必需品です。中東諸国では国や地域で大きな違いがありますが、白いロングドレスのようなカンデューラと黒が主体の被り物イガールがごく普通の服装でしょう。強い直射日光を避けるには必需品です。

 荷役効率は期待したほど良いものではないけれど、間違いなく“荷役は進捗”しています。多分10日程度で荷役を終了できそうです。同時に24時間連続の作業で、私もそう長く船内に留まることもできないので、夕方16時頃には陸に戻りました。
 まだ時間も少し早いのでクウェート人の相棒に、クウェートの砂漠を案内するよう頼みました。クウェートは面積の小さな国ですが、隣国はサウジアラビアと地続きです。20分も内陸に入り込むと、直ぐに広大な砂漠が展開されています。この日はやや風もあったので、砂塵の向こう側に真っ赤な太陽がゆっくりと沈んで行く光景が、目の前に展開されました。周囲には数個の原油掘削用の櫓が見えましたが、ああ、とんでもないところに来てしまったと思わず考えました。

 そして、1990年8月イラクのクウェート侵攻が、突然開始されました。さすがのイラクも、外国人が滞在する市内の五つ星ホテルを銃撃することはなかったようですが、あの見慣れた市内を戦車が走り回る光景をニュースで見るたびに、体に戦慄が走るのを感じました。以前のベイルート市内の銃撃戦を思い出しました。
 次回クウェートを訪問したとしても、あの平和な砂漠の夕日を眺めることは出来そうもない、と寂しい気分です。

(浜崎慶隆)