違法伐採をめぐるEUの最近の動きとクリーンウッド法について(佐藤雅俊)

 クリーンウッド法(以下CWと略す)1)は、我が国または原産国の法令に適合して伐採された樹木を材料とする木材・その製品の流通及び利用を促進することを目的として、対象となる木材等や木材関連事業者の範囲、登録制度等を定めるとともに、木材関連事業者や国が取り組むべき措置について定められた法律で2017年5月20日に施行されました。この法律により、自然環境の保全に配慮した木材産業の持続的かつ健全な発展が図られ、地域及び地球の環境保全に寄与することになります。

 このような規則や法律は、他国においても施行されていますが、その中でも昨年、違法伐採木材に関する見直しが行われ、一歩先んじている規則にEU木材規則(EU Timber Regulation: 以下EUTRと略す)があります2)。この規則は、2013 年 3 月に施行された規則で、木材の合法性を確保するためにEU加盟国およびノルウェー、アイスランド、リヒテンシュタイン(欧州経済領域)などと共通の規則で、木材・木材製品を域内市場に最初に出荷する事業者の義務、ならびに取引業者の義務を定めている規則で、EU各国は EUTR に従い、法制度と国内体制を整備し実施しています。

 そこで、現在、世界的に問題となっている違法伐採に関連する項目について、CWとEUTRの両制度を比較してみると、以下のような相違点が認められます3)

1)違法性や違法伐採等の定義:CW、EUTRともにほぼ同じです。

2)禁止されている木材の取り扱い:

CWには記述がありませんが、合法性が確認できない木材等を取り扱わないと明記されています。EUTRには、違法伐採された木材及びその加工品のEU市場への出荷禁止が明記されています。

3)業者による木材の合法性・違法性の確認:

CWには、木材関連事業者は国が定める基準に沿った合法伐採木材等であることの確認(合法性の確認)とあり、EUTRには、違法に伐採された木材が域内市場に出荷されるリスクを減らす適切な注意(デューディリジェンス、Due Diligence:以下DDと略す)を払うこととあり、デューディリジェンスシステム(Due Diligence System: DDS)を用いた情報の収集(法律の遵守状況の調査等)、 違法性のリスク評価、リスク低減措置が求められています。

  • 事業者の義務:

CWには、合法性確認、記録の保存、分別管理、情報伝達の取組を促進する記載はありますが、規定されていません。EUTRには、①EU市場に木材を最初に出荷する者は、DDを行う義務とDD記録の5年保存義務。②域内市場で木材又は木材製品を販売・購入する者は、購入元の記録の5年保存義務などが規定されています。

5)合法性の確認に係る罰則:

CWは規定されていません。EUTRには、違法伐採木材を取引した場合の違反や DDの不履行に対する抑止力を持つ罰則が、個々のEU加盟国において定められています。

 さらに、合法性の確認に関しては、2021年11月11日にイギリスにおいて、「森林リスク産品のDD」が国会で可決され、EUTRにおいては、2021年11月17日にイギリスとほぼ同じような規則案が提示され、2022年6月28日に森林減少フリー製品に関する規則案」が合意されました4)。この規則は、商品作物用農地の拡大に伴う世界的な森林破壊や森林の劣化を防止することが目的で、森林破壊等を生じて生産される商品作物の主要な消費地で、環境へ与える影響が大きいことから、EU域内に供給される、あるいはEUから輸出される商品作物(森林リスク産品:木材・木材製品、牛・牛肉、カカオ、コーヒー、オイルパーム、大豆。また、対象産品を原料とする皮革、チョコレート、紙・パルプ、木材家具、プレハブ建築などの派生製品も対象)に関し、森林破壊によって開発された農地で生産されていないこと(森林破壊フリー)を確認するためのDDを求めるとした規則です。

 そこで、EU理事会では、「森林劣化(森林破壊)」の定義を、「原生林をプランテーション用地に転換するなど森林被覆を構造的に変化させること」と明確化し、定量的、客観的、国際的に認められたデータに基づいて測定可能なものにすべきとしています。さらに、「先住民族の権利に関する国連宣言」への参照を複数追加し、人権保護に関する内容も強化されているようです。

 このように森林資源を取り巻く社会環境は速い速度で益々厳しい状況になりつつあり、国産木材等を諸外国に輸出しようとしている我が国の政策を考えると、2008年の米国の「レイシー法」、2014年の豪州の「違法伐採禁止法」、2020年の中国の「改正森林法」、2018年の韓国の「木材の持続可能な利用に関する法律」、2019年のベトナムの「森林法」など諸外国においても、合法性伐採確認に関する見直し等が行われていることから、我が国においても、違法伐採対策の効果的な排除を目指した国際的に通用するCWへの見直しを行う必要があり、農林水産省などは、合法伐採木材法(CW)の改正案を提出し、2023年2月28日に閣議決定を行い、4月13日に衆議院で可決、4月下旬に参議院審議、連休前には成立の予定です。この法律により、輸入業者や国産材を仕入れる製材業者は、森林所有者や輸出業者が提出する書類などを通して、伐採が現地の法律に違反していないかを調べ、合法性が確認できなければ、伐採現場の確認や聞き取り調査を行って情報を集める必要があることなど、違法伐採された木材の国内流通を防ぎ、違反した場合には、是正勧告や業者名の公表、罰金を科せられるように変更し、2025年度から義務付けることのようです。これによって、我が国における合法性伐採のCWは、諸外国との差がなくなることから、その実効性を期待したいものです。

これを契機に、森林資源について、違法伐採を効果的に排除し、持続可能な森林管理を可能とする具体的な方策について考える必要がありそうです。

                                                  (佐藤雅俊)

参考資料

1)林野庁:クリーンウッド法の概要、

https://www.rinya.maff.go.jp/j/riyou/goho/summary/summary.html

2)林野庁:諸外国の合法伐採木材等の流通・利用促進の取組、EUの合法伐採木材等の流通・利用促進の取組、https://www.rinya.maff.go.jp/j/riyou/goho/kunibetu/eutr.html

3)林野庁木材貿易対策室:違法伐採対策に関する各国の動向、2021.12

https://www.rinya.maff.go.jp/j/riyou/ryuturiyou/attach/pdf/210915-43.pdf

4)JETROビジネス短信:EU理事会、森林破壊防止のデューディリジェンス義務化に関する規則案の合意、2022.7.7、https://www.jetro.go.jp/biznews/2022/07/cfe97d237f15d9e5.html