危機一‘発’(番外編):チリ(コンドルその2)

 森林に関する仕事をしていると時折道なき道を行く必要に迫られ、ヘリコプターを利用することがあります。パートナーと共同で山林の調査に行くことになりました。コンセプション市の南西約200km、アンデス山脈のど真ん中の標高1,000㍍程にある広葉樹の二次林です。50年程前に伐採された山林ですが、二次林として見事に再生された地域です。

 警察軍の5人乗りヘリをチャーターしてコンセプション空港を離陸。パイロットは警察軍の少佐。搭乗歴数千時間のベテランです。そしてそれなりに偉い高級将校です。約1時間で調査地域に到着し、調査地区の資源状況や林道の状態など全般を目視実施しました。その後、平坦地に着陸して、いきなり馬で山の管理人小屋まで移動です。これには大変な苦労をしました。初めて馬に乗ったのに林道がないのです。つまりジャングル状態の密生した樹木の間を木を避けながらの移動です。賢い馬で助かりました。
 1.5時間後、やっと管理人小屋に到着し具体的な現場調査についての詳細を協議しました。協議終了後には、管理人と豚の丸焼きを食べるのが定例行事です。これは、普段、人の訪れない山間地で厳しい作業をしてくれる管理人達が都会人に最大限の持て成しをすることにより、山の生活を自慢し、長期間のストレスを解消するための貴重な時間だそうです。彼らは、長期間無線だけを頼りに、外部との接触ができない環境にいるためで、自慢話を延々と聞かされました。

 打合せが終わり、ヘリに乗り込みコンセプションに戻る途中で、パイロットが「コンドル」を発見。カー・チェイスならぬ、コンドル・チェイスを始めました。上空約1,000㍍。下はアンデスのふもとで山あり谷ありといった地形です。コンドルの後ろ約300㍍位に近づいての追跡です。いい加減に止めてくれとはいうもののパイロットは好奇心たっぷりで追跡をやめません。コンドルの後を急上昇・急降下・急旋回を続けること10分程でした。コンドルは何事もなかったように飛び去りましたが、乗っていた我々は、ヘリ酔い状態でした。
 山で調査していたときには、管理人小屋で昼食をしましたが、お茶が飲みたくなったねという話が出て、それでは喫茶店を探そうということになりました。その内、眼下にゴルフ場が見えてきました。平日でゴルフを楽しむ人も見えないので9番ホールに着陸。そのままクラブハウスに入り込んで、このパイロットは良くここに来るのか慣れたもので、ウエイターに紅茶とショートケーキを頼み、先程のコンドル・チェイスが、ヘリの操縦技術に如何に必要かを説明してくれました。

 警察軍はヘリをパイロット付きで格安で貸してくれるのですが、万が一緊急の事故でもあれば、乗客は最寄りの道路端に降ろして、現場に駆け付けるという条件が付いています。後に、同じパイロットが、田舎で発生した重大な交通事故での救助のため、セスナを畑の横に緊急着陸させ、人命救助にあたったという話を聞きました。
 それにしても、ヘリでお茶をしにゴルフ場に立ち寄ることができて、大いに楽しんだ一日でした。さらにコンセプション空港への帰途、十数kmの海岸線があるのですが、この波打ち際を(内緒で)遊覧飛行することができました。波の上5㍍程を大きくスウイングしながらの低空飛行です。多分これは禁止事項なのでしょうが、警察軍には適用されないようでした。
 別の機会に民間のセスナをチャーターして山林調査をしましたが、コースを外れると直ちに管制塔(軍が管理)から「コースを外れている。直ちに所定の飛行ルートに戻れ」というキツイ警告が、パイロットに届きました。
 その後も各地の山林調査で警察軍にはお世話になりました。いつか特集しましょう。

(浜崎慶隆)