ベトナム2:メコンデルタの硫酸酸性土壌地域

ベトナム南部の硫酸酸性湿地

 ハノイ近郊を訪問してから 2 年後、メコンデルタの中心都市カントー(Can Tho)を訪問する機会がありました。成田から直行便で暗くなった夕刻、ホーチミン市の玄関口タンソンニャット国際空港に降り立ちました。滑走路から駐機場までの誘導路を移動中の飛行機の中から、明かりに照らされた異様な光景が目に飛び込んできました。大きなかまぼこ型のコンクリート構造物がいくつも並んでいました。

 そう、掩蔽壕です。タンソンニャット空港はベトナム戦争時、何回か解放戦線のテト攻勢で攻撃され、最後の 1975 年のサイゴン攻防でも戦場になりました。アメリカ軍及び南ベトナム軍の戦闘機などを防御する施設です。Google Map を見ますと現在もターミナルビルに近い誘導路に多数残されているようです。それだけ丈夫なんですね。

洪水後に旺盛に生育する草地

 カントー市に行く前に、ホーチミン市から北西約 100km のカンボジアとの国境の近くに草原となっている湿地があります。湿地と言っても日本各地にみられる湿地とは違っていて、水も土壌も強い酸性、pH3.5~4です。もちろんそのままでは農作物は作れません。この地域は大河メコンの雨季溢水域で洪水により酸性の原因物質である硫酸が洗い流され、しばらくの間、pH が上がり農耕ができる状態になります。

硫酸酸性湿地で生育するメラルーカ樹

 よく「メコン河の洪水対策」が話題になりますが、洪水がなくなったら農耕ができなくなるということを十分考えておかねばなりません。この地域では主要道路は、ひどい洪水でも浸水しない 2 段盛り土の上に作られています。道路の脇の 1 段目には農作業用の小屋が建てられといった工夫が凝らされていました。洪水など災害は避けることはできません。しかし、工夫さえしていればその災害を受け流すことができるでしょう。日本にも例えば堤防の一部を予め切った「信玄堤」など、洪水を受け入れるけれど、溢水を速やかに排水するという工夫が古くから行われてきたことを忘れてはならないでしょう。自然を力で贖うのではなく。

(飯山賢治)